林快彦先生、お疲れさまでした。
なんて惜しい作品なんだ。(色々書きたいこと書いたら全然まとまらず、読みづらいし長くなっちゃった。)
総評
まず、作品について。公式からのあらすじはこんな感じ。
勇者、それは闇を祓い世界に平和をもたらす者。
魔王、それは闇を纏い世界を恐怖で支配する者。
...─しかし時は移ろい、勇者と魔王は共生の時代へ!平穏な世界で役目を失った肩書だけの勇者・コルレオ。
そんな彼の元に、異世界の勇者と魔王が現れる!
新たな勇者と魔王の登場で、世界の均衡は崩れ始める──!!
ニューノーマルファンタジー、開幕!!
勇者と魔王が手を取り合って暮らす平和な世界に、戦い合う異世界の勇者(エヴァン)と魔王(エンド)が表れたことから始まる、バトル系ファンタジー。
あらすじをみればわかる通り、ジャンプが当てようとしてなかなか当ててこれなかった(『ブラクロ』は例外)剣と魔法の、ゴリゴリのハイファンタジー。
設定は非常に凝っていて、ある世界の勇者と魔王の干渉によって、世界に多くの勇者と魔王が世界に現れるようになる。異世界一つにつき、一人ずつ。それぞれ姿も年齢も性別も境遇も違う。平和な世にあって、勇者とは何か考え続けていた主人公・コルレオは、彼らと触れ合うことによってどう成長するのか…と、やや誇張して解釈すればこんな感じの物語。
まず絵。結構うまい。魔王エンドの書き込みは、明らかに異質なモノの表現としてすごく良いと思った。大崩れもしていない。ただ、顔はたまに不安定、一枚絵は普通。
すごく良かったのが演出。効果音がコマを隔てたり、手塚治虫の『火の鳥』みたいな攻めたコマ割り。明らかに新時代の、ある種第四の壁を越えるかの如く。これをジャンプでやっちゃうんだからすごい。中盤はほぼなくなった。
序盤の評判は良く、画力・キャラクターも評価されていたように思う。なんてったって金未来杯において『絵に描いた餅を書いた餅』で圧倒的なパワーを見せつけたことによる前評判が大きかったと思われる。一方で、コマ割りや演出面はそこまでウケておらず、「読みづらい」という意見が多かった気がする。
面白いことに、184の感想は全然違うんだよね。序盤から感じた画面作りはすごいと思ったし、今も長所だと思っている。ただ、テンポの緩さ、話の進まなさから、そこまで惹かれてないことが当時の感想からうかがえる。特に、キャラが立ちまくっていたコルレオのママ、マママが3話で半退場してしまったのは、物語を進めていくキャラクター選びという観点から見てかなり痛かったように思う。
それでも、挑戦的なコマ割りと演出はすごく目を引いたし、本作らしさが表れていたと思う。それこそ、林先生の作家性が見える部分だったのだが。
序盤から中盤にかけては紋章術での能力バトル。ありきたりな能力が多かったが、光るものは感じた。特に、ミネルヴァの能力が好き。星を出して相手の意識を強制的にそらす。あんま強くないように見えて汎用性が高いし、コマを越える星の演出が好きだった。ただ、個性はそこまで出せていなかったように思う。
ここらへんから、コマ割りの演出は控えめになっていたと思う。残念だった。
ある程度回を重ねてからは、ハーレムものに片足を突っ込み始めた。そういえば、味方側の勇者と魔王はだいたい女だったし、バトル続きだった一時期から一転、日常回をやり始め、挙句の果てには遊園地回が挟まる。硬派だと思っていたハイファンタジーからの転換は、個人的にはやや受け入れがたいものだった。全体的にお色気/ハーレム要素が俗っぽいのもきつい。世界観にあってないよ。
ただ、この路線の方にした途端、筆が乗り始めた。というか、話単体で見ると、明らかにこっちの方が面白かった。そういえば、これまでの読み切りを鑑みると、林先生は学生ものばっかり描いてる。急にファンタジーなんか始めるもんだから、勝手にこっちが身構えていただけなのである。ハーレム要素も、非日常パートでは『鵺の陰陽師』みたいでおもしろかった。
総じて、題材自体は良かったが、調理の仕方がもったいなかった印象。路線変更も作品の空気にあっていなかった。明らかにコメディー系の話の方が筆が乗っていたところもあって、題材と適正のミスマッチがあったような。ポテンシャルは十分にあっただけに、本当に惜しかった。
当初の人気と比べてやや早めの連載終了になってしまった感はあるが、それでも林先生の読み切りは色褪せない。今でもジャンププラスで読めるよ。
最終回の感想
魔王エンド。コルレオは優しいから、エンドをも救おうとしている。こういう、主人公の成長が明確にみえるシーンは好きだ。描き込みも見事。最後まで安定したクオリティー。
最近よくある、単行本で完結エンドかー。作品をきれいに完結させるにはいい手法だけど、本誌しか読まない人間にはちょっと寂しい。でも、昔はここでぶつ切りだったと考えると、優しい処置ではある。
お疲れさまでした。
最終回掲載週の全体の感想
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おわり。
以下、妄言。
正直、紋章術が出てきたあたりでちょっと思ってたのと違った。184が想定したのは、「複数の世界観を内包したファンタジー」という名のメタファンタジーである。「なろう」的テンプレファンタジー世界を相対化し、その上で他のファンタジー世界を混ぜ合わせる実験を読むという、ある意味での「反なろう」的作品なのではないか、と(なろうに媚びないジャンプらしく)。具体的には、コルレオの異文化交流を想定していた。自分と価値観のまったく違う勇者と、魔王との交流を想像していた。
しかし、紋章術が「共通システム」であるということが分かった。追加される勇者と魔王も、ステレオタイプな西洋ファンタジーの域から出てはいなかった。ということで、上記は全くの行き過ぎた思考であったことが分かった。
まあ、これを週刊連載でやるのは難しいだろうし、ストーリーにまとまりを持たせるには向いてないだろう。要するに、勝手に期待して、勝手に損した気分になった。が、「ニューノーマル」だし、林先生のポテンシャルもあって、深読みしちゃうじゃん。コマ割りの演出も、そういう感じかなって思ったし。