184

漫画の感想。

『極東ネクロマンス』総評・最終回の感想

那波歩才先生、お疲れさまでした。悲しい。憂鬱。

総評

shonenjumpplus.com

公式のあらすじはこんな感じ。

家族思いの少年・宇埜薫の眼に、ある日突然映るようになった謎の化け物――“死霊”。彼の前に現れた、亡き父の仕事仲間・天涅耀司と、父が残した不思議な指輪が、少年を死霊術士の世界へと誘う――『ALIENS AREA』の那波歩才が贈る死霊術士バトル新連載!!

『極東ネクロマンス』|集英社『週刊少年ジャンプ』公式サイト (shonenjump.com)

あらすじにもある通り、”あの“『ALIENS AREA』で一躍話題を呼んだ那波歩才先生によるバトル漫画。

連載前には「ジャンプGIGA 2023 SUMMER」に『ムクテルアオイ』という読切を掲載していた。この読切がまあ素晴らしい出来で、そんな読切からキャラデザを転用していた本作は発表時から期待の声が上がっていたように感じる(少なくとも184は発表時すごく嬉しかったし、新連載組の中ではいちばん期待していた)。

第1話の思い出。待ってましたと表紙を捲って(電子だけど)巻頭カラーページ。「憂鬱って言いたいだけです」。那波成分たっぷりの台詞回しに思わず爆笑してしまった記憶がある。

全体を見ても、他の連載作品とは一線を画すような、青年誌のようなオシャレな演出を多用。これは、前作よりも早くから、より前面に押し出されていたように思う。細かい台詞回し、まるでV系バンドのような出で立ちの死霊術士集団「饗苑」とか。全くもって大衆ウケする気がない、それでいて(だからこそ?)クセになりそうな独特の味。

そして、キメるところはキメる。死霊術、いわゆる”ネクロマンシィ“のネーミングはセンス爆発。昭和感マシマシの、かっこいいようなかゆいような。独特の世界を構築することに至っては、右に出る者はいないだろう。

絵も前作よりうまくなっていたし、途中で崩れることはなかった(ちなみに前作について、那波先生はコロナ感染の憂き目に遭っていたことを附言しておく)。死霊のデザインも、メインのシシとチタリは人型で、魅力的に描けていた。一転、一般死霊は無国籍的なクリーチャー。モチーフがはっきりと分からない、不安定さ、不気味さが、死霊の異質をより際立たせる。

20話足らずの連載になってしまった影響で、どうしても構想の断片しか見ることができなかったが、その作り込み、細部に関しては、那波先生にしか出せない味を存分に堪能できるようになっていたと思う。

さて。これだけべた褒めしながら、じゃあなんでこんなに早く終わってしまったのか。という話について。

まず、作品全体を通してみると、結果論ながら、アンケートが取れる漫画ではなかった。

演出もキャラクターも派手ではなく(どうしても話数が足りないというのはわかっているが、最終戦に死霊術会から応援に来た二人はキャラが弱く感じた)、主人公・薫が死霊術士になる動機も、「唯一の家族である祖母を守るため」というもの。素敵な動機だが、ジャンプ漫画にしてはびっくりするくらい地味。アンケートシステム、――ジャンプ内での読者の奪い合い――を制する力が無いのは明らかだった。柱が二本抜け落ちようとする現在(2024年9月)のジャンプならまだしも、ただでさえ競合揃いのバトル漫画だし。

上で評価した死霊のデザインも、死霊術のネーミングも、キャッチ―さには程遠い。特に、味方の死霊もクリーチャーで(以下、「師団カシマシ」について)、「ジョジョ」のミスタのスタンドみたくしたかったのかもしれないが、デザインがそれを許さない。親しみを持てないと、愛着が湧くはずもなく。

要するに、上記で184が評価する点は、那波先生の強烈な個性によって彩られたものであって、多くの人に刺さるものではなかったということだろう(しかし、それ故に一部の読者を強く引き寄せる作用を引き起こしていると考えられる。表裏一体。難しい)。これは、前作についても同じことが言える。どうしても前作の轍からはみ出ることのない「置きにいった」という印象は否めない。

次に、ある程度読者間で共通した意見だと憶測するが、バトル描写自体はそこまで上手くないと思う。もちろん、1話で見せたバトルシーン演出など、戦闘シーンに魅力がないわけではないが、「死霊術士バトル」と銘打つ割にはパッとしない戦闘が多かったように思う。具体的には、バトルの構図とロジックの薄さ。

もうちょい能力バトルよりにすれば、印象の薄さも和らいだと思うし、なんなら前作の「兵装」はシステマティックなわかりやすさと使用者の個性を両立していたな、と再評価。

更に、個人的に大きかった問題は、「結局この漫画のジャンルはなんだったのか」ということである。

前作『ALIENS AREA』で評価されていたのは、もちろん那波先生のセンスもそうだが、一貫して「お仕事もの」だったというところにあると思っている。

そもそもの動機自体は、前作の辰己も、本作の薫も大差ない。どちらも家族を守るために、秘匿された組織(外5と死霊術会)に加入する流れ。

しかし、外5(外事第5課)は警視庁の職員。外5であるからこそ、どれだけ個人の矜持を踏みにじられて挑発されようと、私情を挟まず、仕事として会議を経た上で、職務を遂行しなければならない。少年漫画の文脈から外れた、感情に反した「ズラし」。それを可能にした論理が「お仕事もの」である。頭に血が上った新入りの辰己を諭したのは、先輩である写楽。外5であるからこそ、自らの手で被疑者を逮捕できるのだ、と。

ここで辰己を「外5」という組織の一員に昇華させ、自らをもって手本とさせた点において初めて、『ALIENS AREA』が「お仕事もの」「タッグもの」として優れた作品になった。と、184は考える。この、「ズラし」によって強調された「一貫性」。かなり批判された部分でもあるが、184はこのやり取りにこそ、『ALIENS AREA』の核心が隠れていると思う。

さて、本作に立ち返って考える。確かに、第2話で「仕事としての死霊術士」を改めて問うところに「ズラし」があり、序盤として良い導入だったが、物語の筋は、次第に耀司の方へ移行していったように思われる。死霊術士としての職務への哲学が耀司から薫へ伝えきれなかった点からしても、本作の大部分を占める「お仕事もの」「タッグもの」の魅力が十分に出せていなかったように感じた。

このような要素から、184自身もラストバトルまでの縦筋が唐突に感じ、どうしても入り込めなかった側面が大きかった。バトルに紙幅を費やすよりも、こういった要素を押し出していったほうが、那波先生の良さをより表に出せたのかもしれない。

……にしてもどんだけアンケートが取れなかったのか、いきなり急落したのは悲しかった。クオリティ的には中堅あたりで落ち着いてもいいくらいだったのに。もちろんずっとアンケートは1位で出してた。なぜ。

 

以上、長々と書いてきたが、端的に言えば、細部に光るものを見せたものの、終わるべくして終わった作品と評価せざるをえない。文字通り最初の巻頭カラーページから終わりまで、週刊少年ジャンプ内では絶対にウケない漫画だった。

それでも、那波先生の作品からしか得られないものがある。媒体に関わらず、次回作、期待しています。

(これまでの記事で考えたことが土台になっている部分があるため、もしお時間があればこちらを参照していただけると、184の言いたいことがよりわかるかもしれない。)

最終回の感想

さて。とんでもない最終回だった。

薫も緊急事態だが、死霊術会のふたりも緊急事態。耀司の生存確認。耀司は憂鬱を受け入れた様子。

指輪を作った魔術師たち。空港で待ち伏せするも、長はすでに薫に接触していた。長が過激派なら結構ピンチな状況の気がするが、空港の彼らは馬頭らには興味が無さげ。

おかえりなさい!電話を操ったのは死霊術によるものか。死霊術を司る指輪を作ったのは私。「貴方を死霊から守る為」「極東の島国だけはやめて欲しい」どういうこと?

……愛である。宇埜茂。薫の高祖父とのロマンス。そして愛ゆえの嫉妬。それは宇埜に先立たれた、薫の祖母にまで矛先を向ける。そりゃ心も動く。そりゃ臨戦態勢。

細かいが、チタリ似の女の死霊は無機質系ではなく明らかに虫モチーフ。ちなみに空港の男が使役する死霊も虫っぽい。連載が続けば関連があったかもしれない。

祖母に危害は加えない。ただし、お嫁さんになってくれたらね……♡♡♡

最終話

極東・死霊・きょくとう・ネクロ・ロマンス

??????????

かくしてこの漫画は、「新キャラ恫喝求婚エンド」という、前代未聞の結末を迎えることになったのであった。。。

最後は耀司。憂鬱って言いたいだけ。(外面では)動揺することなく、常に飄々としていた耀司。思い返せば、薫とは対照的なキャラクターだった。これにて完結。

…………

 

 

まずは俺の立場と方針ステイトメンをハッキリさせるか。

184はこの最終回、評価します。ひとつめは、明らかに作り込んでいたことがわかる終幕(ぶつ切りエンドでも可)は、丸くまとめた円満解決よりも作品世界に対して誠実だと考えているから。ふたつめは、「へぇ~、那波先生こっちの路線で考えてたんだあ!」となったから。那波作品において、感情で動くトリックスターのようなキャラクターをメインに据えて登場させた点が新しい。てか、チタリの「ん」がここに繋がったのも面白い。

おそらく、このタイトル回収は前からの(なんなら連載開始前からの)構想だったのではと邪推する。もしそうならば、なぜ最終回まで取っておいたのか。もっと早めから出していれば、こんな結果にならなかったのではないか。今は純粋に、そう思う。

だが、少年ジャンプはエンターテインメント。娯楽性を勘案するなら、この終わり方はすごく良かった。台風一過の澄んだ青空を眺めるがごとく、晴れやかな気持ちで「ありがとう」を伝えたい。

新連載発表時の印象

jdmgajdmga.hatenablog.com

序盤の感想

「総評」に貼ったリンクと同じ記事。何度も貼ってすみません。

jdmgajdmga.hatenablog.com

最終回掲載週の全体の感想

jdmgajdmga.hatenablog.com

新連載・最終回などの記事一覧

jdmgajdmga.hatenablog.com