『アスミカケル』川田
納得できるような、できないような。
川田先生、お疲れ様でした。
総評
まず、作品について。公式からの説明はこんな感じ。
「火ノ丸相撲」の川田先生がジャンプの舞台に堂々帰還!
祖父の介護を手伝いながら冴えない高校生活を送る少年・二兎。だが、女子プロ選手を目指す先輩・奈央の導きで総合格闘技(MMA)と出会ったことから、彼の日常は一変していく...!?
戦わずにはいられない――全力本格MMAストーリー、ここに開幕!!
二兎を中心とした、リアリティ重視の本格格闘漫画。
好きなところ。丁寧な作り。テンポも適切なほうで、「スポーツもの」によくある、全然スポーツしない問題も発生せず、組み立ては堅実だった。突飛な展開もなかTったし。肝となるMMAの描写もばっちり。リアルな世界観を、リング上でも崩さなかったところが一貫していて好き。
キャラクターも作り込まれててよかった。特に直近のハゲは、二兎が引導を渡したことになるが、うまく物語と絡めて意味を持たせている。泥臭いキャラクター造形が映える物語だということが、川田先生自身もわかっているのだろう。引き際も潔くて好きだ。
作画も上手いと思う。人体が崩れないので安心して物語を進められる。
ただ、本当に地味だった。常に一定以上のクオリティーだったが、起伏がない。あと物語が暗い。リアリティがあるからより暗い。漫画的ハッタリもひかえめ。丁寧な構成が、かえってフックの無い展開になってしまった。強いて言えば二兎くんはもうちょい個性的でも良かったのかな。結構早めから下位にいた気がするので、掴みが地味だったのが厳しかったか。
あらゆるジャンルの漫画が掲載されているジャンプにおいて、存在感を出せなかったのが痛い。波風を立てることなく、順当に沈んでしまったという印象。
また、二兎の家族構成を活かしきれていなかったと思う。もちろん、細部の作り込みを否定する気は毛頭ない。「祖父の介護」という社会的テーマを提起したところまではいいが、連載を続けていく上で、この命題が作品の追い風になったかは疑わしい。作品全体の明るいとは言えない雰囲気の一つの構成要素として、読者に敬遠されてしまう余地を残していたと思う(暗号学園のいろはにも言えることだが、娯楽作品を求める読者と「重い」テーマは相容れないものか)。
184的には面白く読んでたほうなので悲しい。『暗号学園のいろは』とあわせてより悲しい。
最終回の感想
過去回想を挟んで、一狼の格闘技への思いを明かして、兄弟対決が始まるところで終わり。悲しい。その対決を見せて欲しかった。丁寧な作りの作品なだけに、この〆はつらい。
あと、総評の方で触れた祖父が物語上重要なトリガーになっていたことがわかった。説得力もある。だからこそ、物語に必要ならば、主人公と絡めたときにもっとうまい展開に昇華してほしかった。具体的に言えないのが悔しいし、申し訳ないが。
あくまで『アスミカケル』は兄弟の物語なんだな、と感じた。