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漫画の感想。週刊少年ジャンプ、新連載から完結作まで。+『対世界用魔法少女つばめ』全話完走。

第18回(2024年)金未来杯の感想まとめ

毎度おなじみ……にしたい!金未来杯の感想まとめです。今年で2年目

邏卒妖怪狩り』吉田B6(WJ45号)

安定感〇。

トップバッターは吉田B6先生の邏卒妖怪狩り』。

 

明治時代の日本で、妖怪を捕まえる警察の話。

話はいい感じ。少年・太一は強い怒りの感情によって「妖怪」を宿したが、それを取り締まる警官・影郎も似たような境遇。その感情を知っているからこそ、「陽の当たる場所」へ戻そうとする。わかりやすく、盛り上がる構造

本筋は連載にするならやや単純だが、自分の経験から他人を救おうとする「世直し復讐もの」であり、テーマ自体はやや暗いが、途中のコメディ描写も含めて光の属性を持っている。今のジャンプにぴったり

選ぶ妖怪もマイナーどころから、かっこいいやつらをチョイス。良いセンス。時代設定はそこまで生かされず(警官の制服がかっこいいからまあいいか)。

絵。丁寧。バトルシーンは妖怪の迫力もあってよく描けている。平時はやや淡泊に感じた。

 

全体として、コンセプトのはっきりした漫画。バトルにも期待ができるし、お話も練り込める構造になっている。連載になってもうまくこなせそう

金未来杯としても、良い出だしじゃないでしょうか。

 

邏卒妖怪狩り』掲載週のジャンプ全体の感想

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『信号オールレッド』泉博士(WJ46号)

これはすごい

お次は泉博士先生の『信号オールレッド』。

 

超能力者を集めた学園で、生徒会長選挙を控えるふたりの物語。

金未来杯優勝です。おめでとうございます。

テンポよく密度あるストーリーを、シリアス・コメディの調和が取れた絵で描き出す。ブコメ戦国時代(184が勝手に言ってる)のジャンプ本誌連載陣のただ中にあって、どの作品とも被らない方向性。超能力の感じは『超巡』と似ているものの、話に縦軸の強さがあるからだろうか、そこまで気にならなかった。

キャラクターの躍動。思い立ったら動かずにはいられない芝太陽と、未来が見える故に変な意識をしてしまう玻座真月。外部生と内部生、すなわち学園内での格差構造を体現するかのような2人だが、玻座真の予知能力のおかげで中盤に大きな展開を起こしながら、2人の間ではその構造が解消されているところに技術が光る

特筆すべきは場面転換。序盤→中盤と中盤→終盤の転換時に、それぞれ「生徒会長選挙応援インタビュー」と「太陽の回想」という、本筋にかかわる補完情報をきっかり1頁ではさんでくる。メインが2人の会話なので、視覚的な箸休めになって非常に効果的。

ラストの怒涛の展開。トラブルのもとが超能力で発生するのは当然として、2人の脱出が、どちらもこれまでのやりとりを回収するものになっているのが心地いい。「君じゃあ変えられない」「副会長にしてあげる」も、この手のジャンルに美味しいアンジャッシュ的行き違いがバッチリはまっている

 

全てが連載レベルの傑物ここ一年でいちばんの読切かも。来年と言わず、すぐに連載を。

 

『信号オールレッド』掲載週のジャンプ全体の感想

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『OSAMU』千木チキ(WJ47号)

ああ、こういう系ね。

今週は千木チキ先生の『OSAMU』。

 

現代日本で怪獣と戦う、主人公最強系漫画。
まず、絵が良い。かわいい絵。エネミーの不気味さをも包み込んで、素朴な雰囲気を作り出している。低年齢向けのストーリーも相乗効果。手書きデカフォント、好き。

ギャグパートは年齢層的にnot for meだとして、題材がなあ。『マッシュル』『キヨシ』(『魔男』)から(なぜか)途切れない主人公最強系

少なくとも、ジャンプではお腹いっぱい。怪獣が攻めてくるのも、ジャンプラで流行っているジャンルだしなあ。手垢のついたジャンルふたつを掛け合わせた上で、既存作品に埋もれない差別化ができていたかは疑問。アクションが特に強いわけでもないし、キャラクターの心理描写もふつうで、なんとも言えない。

 

それでも独特の絵柄と演出は魅力。特徴がより活きるジャンルを探して、色々な漫画を描いてみて欲しい。

 

『OSAMU』掲載週のジャンプ全体の感想

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インビジブルブラッド』有坂旭(WJ48号)

絵がうまい。

今週は有坂旭先生のインビジブルブラッド』。

 

変人・ユガミとヒロイン・明の凸凹コンビによる、学園ゴーストバトルアクション

もうね、絵がうまい。これに尽きる。作画も構図も、現連載陣と比較しても上位クラス。霊という結構何でもありな題材と相まって、パラパラとページをめくっているだけでも楽しい(電子だけど)。変人設定のおかげで、学校内でのバトルにもかかわらずやらチェーンソーやらが続々出てきて飽きない。

内容も良い。バトルに重きを置いているからややあっさりしているのを考慮するとしても、キャラクターと設定がすごくよく出来ている

ユガミは高校を留年する「変人」ゆえに霊と戦えちゃうが、非戦闘員の明と一緒にいなければ霊が視えない。ストーリーにもバトルにも噛ませてくる設定で、よく作り込んである。さすがの『ネウロ』好き(184は序盤しか読んだことないけど……)。

 

連載するにおいては、学園もの特有の世界の狭さ、ヒロインの薄さはやや懸念すべき点だが、それ以外のすべては優れている。漫画という媒体の強みを活かした、完成度の高い読切だと思う。

 

インビジブルブラッド』掲載週のジャンプ全体の感想

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『復活神ハンザキ』大川カズヒコ(WJ49号)

手堅くジャンプしてる。

今週は大川カズヒコ先生の『復活神ハンザキ』。

 

骨董屋から復活した神サマとどたばたしながら、かつての友達と仲直りする話。

絵。技巧に走らず、シリアスもコメディもいける良い調整。コスパの良さを感じる。『夜桜』的なゆるさが強い。ゆる神ハンザキくんは、変身前は良い塩梅だが、変身後はシリアスとコメディのどちらにも適性のない謎のデザイン。

話。こういう「バディもの」の類話は、濃いメインキャラの顔見せがそのまま一話になることもあって、筋が単純でわかりやすい読みやすい。それでいて、コメディに関してもノイズになることなく程よい。

 

全体としては、安定したコメディ。言ってしまえば『破壊神マグちゃん』みたいなもんだと思うので(未読)、連載するのであればどこまでフックになる要素を増やせるかが大事になってくるだろう。ただ、今のジャンプだと中堅層が厚いからなあ。どうだろう。

 

『復活神ハンザキ』掲載週のジャンプ全体の感想

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総評

ということで…184的金未来杯優勝作品は…『信号オールレッド』。いくらでも話を広げられる学園ものにして、画面作りが頭一つ抜けていた印象。本誌は現在ラブコメ戦国時代だが、それでも戦えるようなポテンシャルを評価する。

安定感で言えば『復活神ハンザキ』も捨てがたい。二作品とも、看板とは言わないが中堅にしがみつける地力は持っていそうだ。『OSAMU』も独自の長所はある。

今ジャンプに不足しているバトル・ストーリー枠としては、今回は二作品がエントリー。邏卒妖怪狩り』には読者をひきつけるフックを、インビジブルブラッド』には連載を続けていくための燃料を、それぞれ獲得することができれば、ジャンプを支える光の柱になれる可能性がある。

総じて、バランスの取れた読切が多かった印象。優勝作品は、ジャンプ本誌の熾烈な争いの中で頼れるような武器を獲得して連載に臨みたい。

 

2025年1月27日追記:週刊少年ジャンプ(2025年9号)にて結果発表。

優勝は・・・『信号オールレッド』!

おめでとうございます。

去年の金未来杯まとめ

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個別記事での感想一覧

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