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漫画の感想。週刊少年ジャンプ、新連載から完結作まで。+『対世界用魔法少女つばめ』全話完走。

『対世界用魔法少女つばめ』最終話♡対世界用魔法少女つばめの感想&総評

マポロ先生、お疲れさまでした。

最終話♡対世界用魔法少女つばめの感想

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いやあ、すごい最終回だ。これぞマポロ節。

 

世界は今までよりプリプリしたハートに包まれている。内臓のようで不気味。

穏やかに始まる学校パート。1話以来なのでけっこう新鮮。ややリフレイン。

そこにいたのは、明らかに場違いな心心。変身している訳でもないのにこのメルヘンな見た目。こんなのが転校してきたらどうしよう。

転校。3人(と応哉たち)で逃避行。転校生がみんな同じクラスになるの〜?とつっつくのは流石に野暮。

 

屋上にて。気づいたら思念を生み出してしまう。が、まるで危機感のないふたり。

「…きもちわるい」。読者は、これまでつばめのことを買い被っていたのかもしれない。確かに、「世界」と「友達」なら友達を選択した。それは疑いようがない。

しかし、ここでのやり取りは決定的。泪はふたりを「きもちわるい」と評しながら、何ら改善の術を図らない。それを傍目に見る心心はともかく、つばめは気にも留めない。

逃亡生活は少なくとも半年以上。その間、つばめと泪の関係は明らかに破綻している。23話、研究所のふたりの会話から、なにひとつ、事が進んでいない。「世界」を捨てて「友達」を選んだように見えたつばめだが、いまはもう心心にしか矢印を向けていない。つまり、泪は「どうでもいい」。

1話から読者に提示されてきた「友達」に、泪は入っていなかったという事?いや、おそらく違う。1話でつばめが進路調査票に書いたモノはなんだったか。そう、魔法少女である。

前話で、つばめはこう叫んだ。「嫌なこと嫌ってキョヒれる力があるのも魔法少女だと思うよ!」結果的に、この言葉が心心の心を動かしたが、果たしてつばめにとって「嫌なこと」とは何だろうか。それは、「魔法少女ではなくなること」だったのではないか。

もしALLを倒してしまえば(「世界」を選択したならば)、魔法少女の力はどうなっていたのだろうか。おそらく、「世界」によって葬られるだろう。なぜなら、魔法少女は、危険すぎる。対世界用の兵器として猛威を振るうだけならまだしも、無差別に市民を殺戮へ駆り立てる「思念」を生みだす力すら有し得る。明らかに個人が、女子高生が持っていい力ではない。

つばめがあの時、どこまで考えていたのかはわからない。純粋に「友達」を選択していたのかもしれない。だが、逃避行中、その決断の内容は変質したのだ。どう変質したのか。

つばめは、「友達」と「自分」を天秤にかけて、「自分」を選んだ。

……これが、184が出した結論です。完全に見誤っていた。つばめは「友達」に依存しているわけではない。一貫して「エゴ」を追い求めていたのだ。この物語を一言で表すなら、「つばめがエゴを押し通す物語」。

 

[追記2024年9月28日]斜体で。

妄想。泪はもしかしたらもう魔法少女じゃないのかもしれない。

そもそも、泪は自分から望んで魔法少女になったわけじゃない。頭以外がグチャグチャの瀕死状態から立ち直るため、研究所に勝手に改造されたという経緯がある(2話)。そして、応哉は魔法少女から生身の体へと戻す技術を有している(忘れた)。泪自体も魔法少女のままでいることは本意ではなさそうだったし。

また、そうしておくべき理由がもう一つある。思念である。そもそも、思念は「心の底では嫌でも、そう思わなければならない」ときに出現する(16話にて詳しく)。

泪は以前、思念を出して応哉を傷つけた実績があるほどに、思いつめ、悩んでしまう性格の持ち主。そんな性格の泪が、思念を出す原因になるほど悩んでいた自己憐憫に閉じこもるしかないような逃避行を、半年以上続けることができるだろうか。おそらく、限界を超えて暴走ないし制御不能なほどにまで思念を生み出してしまうことが考えられる。そうなる前に泪を無力化するという選択肢が、合理性のレールの上に浮上する(魔法少女としての強さの問題もある。泪のフィジカルは強力とはいえリスクが高い。その点つばめのビームは汎用性もありながら遠距離にも対応できる。心心の戦闘描写は全く無かったが、始祖のウィルスが弱いわけがない)。

ここまでの話を前提に、プリプリの空の♡について。いままでの、心心の出した思念とは表現が少し違うため、おそらく空を覆う♡はつばめと泪によるものだと考えられる。

184としては、つばめが今回のように思念を生み出し続けてこの空になったと思っているが、逃避行中に泪が「暴走」したおかげで禍々しい触感になったのでは、と考えるのも面白い。

妄想終わり。

 

その後、愉快な三人組パートを挟んで、ALLの追手から逃走。花畑。「悪者として」「こう言って変身する~」

 

起動コード実行!―――私は燕、

対世界用魔法少女

 

1話のつばめが予見した、「世界を滅ぼす魔王」となるのか、「なんかすっごいハッピーエンドが来ちゃう」のか。どちらも当たっていたのかもしれない。「つばめにとっては」。

 

この物語は、一見すると小奇麗に包装された美しい物語である。しかし細部をみれば、この物語は、つばめと心心にとってのハッピーエンドであり、それ以外の全てにとってバッドエンドである。(実はこの終わり方は『PPPPPP』と綺麗に逆転している。)

恐ろしいのは、「登場人物が全員、初登場時から成長していない」こと。

思えば、『PPPPPP』は「成長していく物語」だった。ラッキーによって、兄弟や同級生が次々と「成長」していく。その対象はラッキー自身にも向かうことになり、自壊した。そういう物語。

しかし、この物語ではどうだろうか。世界の状況は明らかに悪化している。はちきれんばかりの空から出た思念が、おそらく世界各国で光線を発し、人を狂わせ、殺している。ALLはつばめたちを探すために少女たちを改造し、「兵器」を量産している。それは、つばめの選択が「世界」を選ばなかったから、当たり前とも捉えられる。

かといって、「友達」に目を向けてみれば、「きもちわるい」にもかかわらず、一緒に逃げるしかない泪。だって応哉がいるし、つばめは自分を守ってくれる。結局、泪の自己憐憫は治っていない。治さなければならないと思っているが、行動には移していないのだろう。「めんどくさい」から。

 

この世界は、1話から、何も改善されていない。

これからも、思念というエゴをまき散らしながら、つばめは生きていくのだろう。

晴れやかな空の下、明るく迫ってくるのはじっとりとした虚無感。最高のバッドエンド。マポロ先生、ありがとうございます。

 

総評

さて、ここからは本誌作品を紹介する際の体裁に則って。

公式からのあらすじはこんな感じ。

この世界は誰が救うのか――。魔法少女に憧れる主人公・つばめ、彼女が守るべきは果たして。「PPPPPP」のマポロ3号最新作!激情と悲哀の少女たちのジュブナイル開幕!

[第1話]対世界用魔法少女つばめ - マポロ3号 | 少年ジャンプ+ (shonenjumpplus.com)

『PPPPPP』で一躍ブレイクした、マポロ3号先生の待望の新作。不思議な漫画というか、先生らしい漫画だったように思う。

ジャンルはズバリ、魔法少女もの」。どんな感じになるんだろう~というところで、まず異彩を放っていたのは、予告絵だよね。

絵柄がちょっと変わっていた……というか、ちょっと目が離れていたのがね。「大丈夫か?」って内心思っていたが、本編でも絵柄は変えた感じが強くて、ここは面白いことにチャレンジしているなと。

 

光っていたのは、やっぱり独特のセンス。絵ひとつとっても、前作のファンタのフィナーレのようなコラージュ演出を、モチーフとして随所で使っている。良い。

キャラクター。主人公のつばめは何も考えていないように見えて、一貫している強い意思があるまあ最終話で一杯食わされたが。その上で。サブキャラクターの泪や応哉、おじさんなんかもキャラは立ってるし、印象的なシーンはあったので、比較的よく出来ていたと。

一方、やや巻き気味だった影響で大罪の思念の掘り下げが薄かったのは悔やまれる。

 

設定は振り返ってみれば、かなりSFチック。ウィルスの発見が始まりで、ここは時流からの発想か。このウィルスを軍事転用した上で制御に失敗し、文明が崩壊して2000年(ほぼ)同じ文明が作られて、本編へ――という時間軸。

自分で書いていてもだいぶ飲み込みづらい状況なんだけども、この「あいまいさ」がマポロ先生の持ち味でもあるし、作品自体は雰囲気で読めちゃうからこれ自体はそこまで問題ではない。

むしろ、色々わからないこと(もっぱら、世界の謎)がどんどん増えていく中で、友達を救うため戦いながら徐々に真相に迫っていくというコンセプト自体の面白みは十分だったかと。

 

巻かざるをえなくなった要因は、どうしても掴みの部分で、絵柄も含めて敬遠する人が出てしまったところ。あとは、減ページ&隔週になって、ただでさえ複雑な「謎」がわからなくなってしまう読者が続出してしまったであろうところ。

謎を明かす、いわば「解決編」の話でマポロ先生の「あいまいさ」が発動してしまったことが大きいと思う。要するに、はっきりとした解答を提示しないまま、まとめ回も挟まずに進んでいったところに、少しとっつきにくさがあったと思われる。新規参入もできないし。毎週こんな感じで感想を書いてた184でも、正直ストーリーの理解に関しては自信が無い。

 

いちばん大きい問題はここだったと思う。(ここから続く『PPPPPP』パートは飛ばして読んでも大丈夫なように書きます)

「あいまいさ」とは。マポロ先生が万人受けしない要因ではあるものの、184としては圧倒的な強みだと感じている。一言で言い表せないような、又は言語化できないような存在、気持ち、概念……それらを「あいまい」に描写することで、視認できないような「音」を画面に落とし込んだり、感情の微細なニュアンスを、核の部分をそぎ落とすことなく表現できる。だから読む方もけっこう大変なんだけどね(似て非なる表現として、「行間を読ませる」てな表現があるが、マポロ先生の場合は文字通り「文字(台詞)と格闘する」イメージ……伝わるかな?)

作家性に裏打ちされた「あいまいさ」は、一見すると詩的にも、ややもすれば雑と捉えられがちだが、その「あいまいさ」を以てして初めて表現できるモノは存在すると、184は確信している。

その上で、あえて本作と『PPPPPP』の「あいまいさ」の違う部分を指摘するなら、「過程」と「結果」の違いだと思う。

 

『PPPPPP』が評価されていたのは、キャラクターが生き生きと考え、対話し、独自の関係性を築いているところ。要するに、キャラの魅力が高いところ。

そんなキャラクターたちの魅力を充分に引き出すために、縦横無尽に駆け巡らせるために重要なことは何か。「物語構造の単純さ」である。

『PPPPPP』の構造を単純化すると、「ラッキーと対峙したピアニストたちが、自己の内にある問題を解決する」。全編通して、この様式は大きく崩れない。ラッキーの教科書的な善性や、それぞれの名前の頭文字を冠した丁寧な章立ての展開もあり、読者は無意識のうちに、このテンプレートを踏まえた上で話を追っていくのではないだろうか。

『PPPPPP』の「あいまいさ」は、対峙の中にある「過程」で発揮された。つまり、キャラクターの心情を変化させる動機となったり、キャラクターの思考の内容だったり。この「あいまいさ」は、付加された「あいまいさ」である。いわば装飾音符。物語の表面、大筋を追うならば読み飛ばしても構わない。でも、読み込んで解釈すれば、作品の世界はぐっと広がる。そんな「あいまいさ」だったと考える。

この「あいまいさ」を可能にしたのが、「物語構造の単純さ」である。読者は、キャラクターの心情がどう変化したのか理解できなくとも、「問題が解決したのか」さえはっきりと理解できていれば、十分に物語を楽しむことができる構造になっているのだ。そして、『PPPPPP』の「結果」は単純化される(ラッキーとの和解、コンクールの結果)。

要するに、読者は、対峙した「結果」どうなったかが理解できれば、「過程」がいくら難解でも(主人公が勝負に負けていても!)評価されるに値するカタルシスを得ることができるのだ。そういうふうに、作られている。

 

では、『対世界用魔法少女つばめ』の場合はどうだったか。

『つばめ』の「あいまいさ」は「結果」で発揮されていたように思う。具体的には、「世界の謎」や「思念とは」といった「解決編」で。前述した通り、この作品は「わからないことがどんどん増えていく中で、友達を救うため戦いながら真相に迫っていく」ところに面白みがあると思う。

しかしながら、「真相」の部分がSFチックかつ突飛な設定なため、読者はその「真相」を「真相」だと認識できない。すなわち、作品のカタルシスを得にくい構造になってしまっていたと分析できる。

ここで痛いのは、大罪の思念。比較的キャラが薄く、つばめたちへの因縁が薄いこと。どうしてもマポロ先生の強みであるキャラクターの掛け合いという魅力が生まれにくく、対峙するのは泪、応哉といった固定メンバーに。おじさんは掛け合いというか、殴り合いだし。つまり、バトル的なドラマは生まれども、心情的なドラマが生み出されることはなかった。

このあたりが、どうしても「理解できない」漫画という評価(不当だ!)に繋がってしまったのかもしれない。

 

 

……色々書きましたが、184としては先生らしさ溢れる面白い作品だったと思っています。まあ、好きじゃなきゃ毎週感想は書けないもん。

今作は特に先生の芸術センスが遺憾なく発揮されたかなと。作風に沿ったちょっぴり奇妙なストーリーも、毎週楽しくよんでおりました。

次回作の際は、こんな感じで、毎週感想を書いていきたいなと思っております。

改めて、マポロ先生、連載お疲れ様でした。

 

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