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漫画の感想。週刊少年ジャンプ、新連載から完結作まで。+『対世界用魔法少女つばめ』全話完走。

『さいくるびより』総評&最終回の感想

小林おむすけ先生、お疲れさまでした。

総評

shonenjumpplus.com

公式のあらすじはこんな感じ。

ある日突然瞬間移動の超能力<サイク>に目覚めた佐山ことねの前に現れたのは、サイズ変更のサイクである須谷ねむる。
ひょんなことから同居することになった2人。
超能力者ばかりが住むシェアハウス・サイクハウスでの、ねむるとことねの、ふしぎでふつうな毎日が始まる!

『さいくるびより』|集英社『週刊少年ジャンプ』公式サイト (shonenjump.com)

あらすじにもある通り、ほのぼの超能力日常漫画。

実際に話を追ってみると、上記の説明で過不足のない、ふつうの日常漫画。超能力を持つ仲間たちと、ちょっと不思議な日常を送る物語。

特筆すべき点は、連載枠の競争が激しい週刊少年ジャンプ作品において、一貫して「日常もの」の枠から外れることなく、「日常回」をはじめからおわりまで描き切ったことだろう。

ほとんどの漫画は、連載中にアンケートや読者の声を聞いて作品の方向性を変える。例えば、コメディでアンケートが芳しくない場合、バトル描写を増やしてみるとか。もう少し後ろ向きな話をすると、序盤で広げた風呂敷を急に畳み始めたり、展開が唐突になったり。

この漫画におけるストーリー、――すなわち、ことねのエピソード――は、1話と最後のエピソードで語りきれてしまう。それ以外の話は全て、ストーリー漫画の幕間に挟まる日常回のごとく、1話完結・ストーリー無関係で進んでいく(2話続きもあったか)。このようにストーリーの薄さも特徴的で、『ロボコ』はともかく、他の「日常もの」とされる作品と比較しても薄味なのではないだろうか。

これについて、効果としては一長一短だったと思う。いつ見ても変わらぬ読み味で、ゆる~く読めるところは、クライマックス続きだった他作品の箸休めになる役割を十分に果たしうる力を有していたと思う。

そのかわり、この漫画はそれ以上の作用を一切果たさない。味と言っても薄味で、作中のなんらかに好意を持っていなければ「読んでも読まなくても、どっちでもいいや!」となる人がいても、おかしくないほど。

ただ、作品の印象が決まる最重要の序盤でも、掲載順が落ちても、ずーーっと日常回を続ける先生の胆力はすごいと思った。読んでるこっちが不安になるくらい、そういった「大人の事情」を取っ払って、純粋な「日常もの」をジャンプでやろうとした、その気概を評価したい。

しかし、やはり、もう少しストーリーが欲しかったところ。(184はあんまりこのジャンルの漫画読んでないので的外れならごめん)「日常もの」の日常がなぜ面白いのかというと、それは個性的なキャラクターや、突飛な出来事や、話の(funnyな)おもしろさ、これらがあってこそ、日常の、ほのぼのした出来事が、読者にとって魅力的に映るのではないか。

一転、この漫画を振り返ると、超能力という強烈な要素があるにもかかわらず、キャラクターは素朴で穏やか、出来事は(あかねの境遇を考慮すべきだが)みんなでわいわい何か楽しいことをする、超能力はちょっとずるい!くらいのアクセント程度という薄味仕様。読者がキャラクターの輪の中に入り込みきれず、おもしろさが十分に伝わっていたかは難しいところ。

ただ、この作品でおむすけ先生が伝えたかった事を表現する上で、この薄味は意図的なものなのかもしれない。詳しくは下に記す【最終回の感想】にて。

個人的に勿体なかったのは、学校生活をほぼ描かなかった点。シェアハウス内でのやり取りに終始していたのは、高校生という要素を活かすには惜しかったなあと。山梨要素もちょっぴり期待していたが…(たまに出てくる背景は描きこみが丁寧ですごくきれいだった)。

以下、細かいところ。

絵は、頑張っていた。が、回を追うごとにやや崩れ気味。それでも「日常もの」らしさは担保されていて、個人的にも好きな絵だったので読んでいて楽しかった。

単純に掲載時期もそんなに良くない。『ルリドラゴン』は最近カラーが変わってきているからまだいいとして、どう考えても箸休め枠が『妖怪バスター村上』と被っている。しかも公式の「巻末固定掲載」という「錦の御旗」持ちで、「疑似巻末固定*1」ができない。これはきつい。ギャグ・コメディ系の連載陣がそれぞれ人気で生き残ってしまい、バトル漫画が欲しくなってきた頃合いでもあった。こればっかりは時の運。

まとめ。ジャンプで「日常もの」を貫き通すのは至難の業。挑戦した心意気を讃える。おそらく先生のやりたかったことはだいたいできたのではないだろうか。それくらい、(ジャンルに疎い者の感想ながら)ふつうの「日常もの」だった(さすがに長期連載は厳しかった)。光るものは感じる。

おむすけ先生はまだ初連載。これから作風の幅を広げて、更に読者にウケる作品が描ける先生だと確信している。次の連載もぜひジャンプ本誌で。

ほうきの読み切り、大好きです。

 

最終回の感想

さて、最終回。(書くために読み返したら想像以上に良い話だったのでいつもよりポエミーです。)

「思い出は優しいから甘えちゃダメなの!」とは誰の言葉だっただろうか。あの頃のなんてことない普通の日々を繰り返すことは、日常とは言わない。

日常とは、そう、「今」を生きること。

きらきらしていなくとも、あの頃よりちょっぴり退屈でも、ささやかな幸せをかみしめて、大変なことはみんなで共有して、日々を積み重ねていけばいいじゃないか。まさに作品を体現するような、一貫した主張が伝わった。

そして、忘れない。記憶の中で、その人はずっといる。忘れなければ、いつでも会える。だから、思い出に囚われずに、失敗を恐れずに、現実を歩まなければ。

こうしてことねさんは目を覚ました。また、「日常」を送るために。

サイクハウスはあと半年。頼れるなら頼りたいな。1話では、誰も頼れず能力を使って万引きしていた、あの時のあかねとの対比。他愛もない会話。のどかに流れる時間。こうして、2人はサイクハウスへと帰る。

夏はまだ始まったばかりだ。

新連載発表時の印象

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序盤の感想

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最終回掲載週の全体の感想

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新連載・最終回などの記事一覧

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*1:ギャグ・コメディ漫画に対して発生することがある現象。アンケート不調による巻末掲載ながら、あたかも往年の「巻末固定掲載」作品のような食後のデザート枠として、ジャンプ内で役割を持つことができる