184

漫画の感想。週刊少年ジャンプ、新連載から完結作まで。+『対世界用魔法少女つばめ』全話完走。

『魔男のイチ』1話・2話・3話の感想

『魔男のイチ』原作:西修 作画:宇佐崎しろ

1話の感想(WJ41号)

shonenjumpplus.com

期待と不安と。

 

まず目を引くのは絵。表紙も巻頭カラーページの見開きも、今年一番のレベルでゴージャス。色彩の美しさは、世界観の構築にも一役買っている。本編も、リアルとデフォルメを巧みに組み合わせており、完成度は高い。魔女も魔法も、デザインセンスは週刊連載の域を超えている。

ちなみに。巻頭カラーのイチが学生服を着ている。こーれ、「入学」します。

さて、お話。前半は完璧。山の暮らしに適応したイチ。冒頭のシカさん狩りには冷たい迫力があり、村の女子との会話の際とはまるで印象が違うのが良い。そこから過去回想。

「死対死」。北欧チックな世界観に、いきなり漢字が出てきて浮きまくっているが、この考え方自体は、山で生きるイチを表すものとして、芯が通っていて好きだ。異形の生き物に遭遇したときも、経験に則した行動が出来るところにも説得力がある。てか、罠はいいんだ。

魔法は生き物。最高の設定。言葉を話し、意思の疎通が取れるものの、提案してくる試練は通念から外れた奇怪な存在。だからこそ、試練を乗り越えた者は力を手にすることができるのだ。では、生きとし生ける魔法たちはなぜ人々に接触し、試練を促すのか?これはまたの機会に語られよう。

てか、魔法を得るためには「狩り」をする必要があるのか。なるほど。無関係なイチの山暮らしと魔女の世界がつながった気がした。

王の魔法、キング・ウロロ。荒くれの反人類魔法。意思を持ち、力を手にした生き物ならば、人間に刃を向ける個体がいるのも必定。

貫穿、ラズド。「深淵」の魔女が用いる魔法にしては関連性がうかがえないが、魔女は複数の魔法を扱えるのだろうか。まあ、最強の魔女がこれだけなわけないし、そうなのだろう。

女では心臓に傷をつけられない。魔力が無ければ(≒魔女でなければ)追い詰められず、男でなければ心臓を貫けない。そういうふうにできているらしい。じゃあ「女王の魔法」なら逆で、狩りやすそうだなあ。魔女といいこの設定といい、シェイクスピアの『マクベス』から着想を得たか(184は話で聞いたくらいで未読だが)。

イチ登場。ここからがもったいない。なぜシリアスでいかない。一気に物語が緩む。登場人物の行動は(これまで通り)至って真面目に進んでいるのに、演出が足を引っ張る。あと、罠にかけて刃物を向けておいて、「死対死」が適用されるのはちぐはぐで面白いが、理屈をつけてでも狩りたかったのだろう。

心臓を一突き。瞬間、フォルムチェンジ。デザインはやはり素敵。魔法少女に♡はつきもの。

こっからもねえ。アクションというか、シリアスな、絵で魅せるバトルが描けるところを1話で見せて欲しかったのだが。まあ、展開的には、ここはコメディ調でもいいか。

 

連載第1話に必要なことは全てできているし、絵も話も高水準で期待大。壮大な風呂敷を期待できるハイファンタジーが、堂々ジャンプに登場したことについては、議論の余地なく期待できる。

しかしながら、ちゃんと光の「ファンタジーバトル」してくれるのか、最後に疑問符を残したのがもったいない。今のジャンプに必要なのも、この作品に求めているのもそれなので。

とんでもない言い方をすれば、『ギンカとリューナ』を見たいのであって『マッシュル』ではないということ(校正のときに見たらホントにとんでもないコトを言っている、失礼しました。)。

ジャンルは魔法ハンティングファンタジーだからなあ。どうなんだろう。前半が完璧だっただけに、この絵でシリアスバトルが見たかった。に尽きる。どんな方向で行くのか注視しながら、ささやかな期待を胸に秘めることとする。

 

1話掲載週のジャンプ全体の感想

jdmgajdmga.hatenablog.com

 

2話の感想(WJ42号)

そうですか。

 

緩めの説明回。一見するとテンポが遅くみえるのだが、世界観の説明が多くて充実感がある。行動は起こしていないものの、順調に話を進めることに成功している。ここは原作の妙と言うべきか。

やはり設定はすごく良い。魔法狩りといい、魔法と人類の歴史といい、世界観をがっつり作り込んできたことがわかり、信頼できる。先週も書いたが、無関係そうな魔女の世界と、山に生きるイチの信条がリンクするのも綺麗な流れだと思う。

魔法の仕様。ウロロは特別で、発音が正確ならあらゆる魔法を扱えるらしい。では、他の魔法はどうなんだろう。「魔法狩り」された魔法は、狩った人しか使えないのか、魔女たちが共有して使うことができるのか。レイドみたいに大勢の魔女で狩った魔法は、誰に帰属するのか。とか。気になる。

そうして魔法狩りへと誘われたイチ。本能からの選択。強い原動力を感じる。まっすぐ伸びる縦軸から醸し出される名作感が、ここ最近の新連載とは一線を画している。これは伸びるぞ。

絵も、決めゴマの”再生“による森の見開きは、自然の生命力を感じるほどに、生き生きとした筆致。世界観に合った、画になる絵。なんでこれ描けてシリアスでふざけるんだ

やっぱり経験者は安定感が違う。

 

一つ気になるポイント。

ウロロの魔法のデメリット。3日寝込む。…『アストロ』?。この手のデメリットは『アストロ』や、他誌だと『メイドインアビス』にもあるが、「デメリット調節不可&3日(長期間)」はかなり重い縛りで、正直持て余しそう。

また、魔法狩りをするときは、(魔法を使わなくても試練に合格できる場合を除いて)まずはウロロの魔法のデメリットを減らす特訓をするのが合理的だと思う(デメリットを和らげる方法は無い、となると、さらにこの設定の扱いが難しくなるし、どうせそういう展開やるだろうし早めにやるべき)。普段の狩りで魔法を全く使わないならいいけどね。

足を引っ張る設定にならなければいいなあ。まあ、杞憂でしょう。

 

ただ……。はっきり言います。この演出とノリ、184には合いませんでした。not for me.ってやつだ。

冒頭の主観回想も、ウロロがちびキャラみたいになるのも、なんかきつい。

このぬるい台詞回しが魔法狩りでも続くようだと、ちょっと嫌だ。やっぱりあの絵を見せられたら、シリアスを捨てきれない。

 

ということで、今週は説明回にして読みごたえ充分。お話は間違いなく面白い。平時のノリもある程度わかったので、こんな感じでこの漫画は進むのだろう。早くバトルして方向性を示してくれって感じ。

競合。特になし、中堅以上は確定で残りそう。ふつうに下位作品との交代か。

 

2話掲載週のジャンプ全体の感想

jdmgajdmga.hatenablog.com

 

3話の感想(WJ43号)

順調だけど…気になっちゃう~。

 

今週は魔法狩り。雷狐の魔法を魔法無しでハント。

やっぱり絵はすごく良い。雰囲気と合っている。ここは文句なし。

キャラクターも良い。特にイチ。魔法とはいっても狐なんだね。狐が嫌いな匂いがそのまま効くとか、野生の経験が魔女狩りでも有効なのは面白い。だから説得力があるし、そこから魔女との経験や価値観の違いが見えてきて、良いキャラしてるなあと感じる。一挙手一投足に目が離せないというか。

デスカラスはまあまあ、ウロロはいない方が良い。ウロロが出てきて面白いと思ったためしが無い。

魔法石。この設定もおしゃれで良い。魔女はだいぶキラキラしてたし、自分の狩った魔法で装飾していたらかっこいいし。

土産を持って首都・ナタリーマンチネル魔女協会へ。王道かつ格調高い魔法都市。イスタンブールみたいでおしゃれだと思う。いいね。

 

ただ、今週は話も気になってきました。以下。

まず。雷狐の魔法がだいぶ俗っぽいというか、結局は名声が欲しいかませ魔法の域を出ていないというか。『人造人間100』の人造人間みたいに、人間(魔女)とは違う、「魔法」らしい価値観の違いを見せて、物語の深さ、スケールの大きさを見せて欲しかった(「生き物」とはいっても、「人間臭い」魔法の思考がいまいちしっくりこない)。まあ、かませだからしょうがないか。雷狐の魔法のモノローグがやたら説明っぽいのも、序盤だからってことで。

次。魔女は魔法を「畏怖すべき異形の存在とみる」ところ。

1話2話と続けて「魔法は生き物」と聞かされてきたので、読者としては「魔法は生き物」なんだよね。だから、今回イチが魔法の「生き物」としての性質を利用して狩ったことへの驚きは特になかった。正直雷狐の魔法なんて単なる「電気を扱う狐」なだけだし、モデルとなった動物の弱みを突くことは正攻法に思える。

逆に、魔女が生き物としての性質を見ないで、ある種過大に恐れているのはちょっと違和感。もちろん「魔法が生き物」でも、大多数の魔法が幻獣、つまり現実の獣をモデルとしていない可能性も考えられるけど、それなら最初に出てくる魔法もそうであるべきで、わざわざイチの狩りやすい獣をモデルとした魔法を出すことに作為を感じてしまう。

あと、今回の狩りでは「魔力を込めた罠」で無事完封勝利を収めたが、これを見ると魔女狩りって別に魔女だけのものじゃないよね。武力に自信のある豪傑と魔女のコンビハンターとか、魔力を込めた武器で戦う戦士とかが出てきても不思議ではない設定だと思う。つまり、魔女のみが魔法狩りをしていそうな説明がしっくり来ない。魔法も災害のごとく人に仇なす世界観なだけに、男は無力でそこにいるだけな訳がない。ので、この問題への回答は今後に期待。

細かいとこで言うと、イチは別に魔法狩りしてもその魔法を自由に使えるわけじゃなさそうなのも微妙。まあ、魔女協会で話が動くだろうし、来週解決しそう。

 

なんだかんだ言ってるが、お話も絵も押さえるところを押さえていて結構面白いとは思う。テンポも悪くない。これはもう好みの問題ということで。

3話掲載週のジャンプ全体の感想   

jdmgajdmga.hatenablog.com

 

序盤を通して

ジャンプに現れた超新星ハイファンタジー。奥行きがありながら理解しやすい設定と、世界観とスケールの大きさをものともしない流麗な筆致。まあ残るでしょう。184は刺さってないが、コメディチックな雰囲気も受けてるっぽいし。

ただ、この画力がありながら、バトルで魅せてくれる漫画じゃなさそうなのは残念です。

競合も特になく、そのうち巻頭も取っちゃったりして。売れそうというか、人気でそうな雰囲気がすごい。

 

連載前の印象 

jdmgajdmga.hatenablog.com

 

新連載・最終回の感想一覧

jdmgajdmga.hatenablog.